Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “ちょっとした“お出掛け”?”

            〜たとえば こんな明日はいかが? 参照?
 



          




   ――― コトの起こりは、そりゃあ ささやかなことだった。


 まだまだ秋とは名ばかりで、天気が良ければ依然として残暑も厳しくて。シチューやグラタン、長袖のファッション、シックな秋のカラーをと連呼されるセピア系のコスメのテレビCMを見て、そうだ秋なんだったとあらためて自覚するような。厳寒期には鳥肌になりながら半袖でいたりするよな子が、もう秋なんだからと汗ばみながらフェイクファーやニットに膝丈のブーツなどなどの先取りの流行もので身を固める、ちょっぴり混乱含みのおかしな頃合い。そんな中、高校アメフト界では、いよいよその幕を切って落とそうとしていた秋の関東大会を目前にしており。選手の皆さんが血沸き肉躍る興奮のアイドリング状態に入るのと同様、周囲の後方支援&応援班の方々もまた、居ても立ってもいられないよな状態になってしまうのは同じこと。待ちに待った遠足を明日に控えた子供みたいなワクワクに、ついのこととて浮かれが過ぎて、とんでもないこと、しでかしたりもする…こともあるのかも。

  「俺の秋大会の応援用コスチュームが出来たんだぜ?」

 まだ給食も始まらぬ短縮授業期間だからということで、こちらの昼休みに“小学校まで迎えに来い”と、相変わらずの偉そうな呼び出しをしてきた小さな鬼コーチ様。泣く子も黙る恐持てキャプテンさんが直々に、ゼファーに乗っけて賊学校舎の一角までをエスコートをし。素行に余計な汚点をつけられんなとの厳命から、そのまま午後の授業へと向かわされ、放課後の1つ前の授業が自習になったのでと、一足先に彼の待つ部室へ戻って来た総長さんへ。そりゃあご機嫌そうな御様子にて、おニュウのコスチュームを一番最初に見せて下さった坊や。ジャジャ〜ンっというファンファーレの効果音を自分で言うほど、ご本人はすっかりお気に召したらしい、その御召し物はというと。メグさんが腕を振るって作ってくれた、坊や専用、一点ものの傑作で。

  「ほらっ、カッコいいだろ〜vv
  「…ほほぉ。」

 基本的にはシンプルな、Tシャツというかカットソーというかの、短めのシャツと半ズボンという、お元気な坊やにはお似合いの、そりゃあ身軽ないで立ちであり。金髪で色白という淡い色調の印象が強い彼なのでと、その点への拮抗作用にて雰囲気を引き締めるよう、深みのある漆黒で統一されたところが大人っぽくてなかなかにおしゃれ。きゅっと詰まったハイネックな襟元が、小さな顎やあどけない小顔を引き立てて。少し長いめのリストバンドか、いっそ付け根で千切った袖の残骸のような。手の甲の裾から手首に前腕部と肘までを覆う、同じ素材の漆黒のアームカバーや、腿の半ばまであるオーバーニー丈のハイソックスが、伸びやかな四肢へとぴったりフィットで沿うことで、スリムなその肢体を強調する。カットソーは小さな肩から二の腕がつるりと剥き出しになってるノースリーブタイプなので、事務仕事や草むしりをする時の腕カバーもどきをしているのは…陽焼け止めかな? それともバランスを取るためかな?と。彼なりの解釈の下、何となくながらの“理解”は追いついたらしい総長さんが、
「何でまた、このハイソックスは…片方だけなんだ?」
「アン・シンメトリーっていって、わざと左右非対称にしてあんだよ。」
「それで、左側は腿と足首へのサポータだけなんか。」
「サポータって…まあそうかな。」
 カットソーは肋骨丈で、お腹が丸見え。背中は何故だか左右に大きく割れており、そこを細い革紐が、スニーカーの紐のような編み上げにてギリギリで繋ぎ止めており、ホットパンツ風の半ズボンも、両脇が同じような編み上げデザイン。
「…聞いていいか?」
「おうっvv」
「なんでこの短パンの脇の隙間には、編み上げの紐しか見えねぇんだろうな。」
「ああなんだ。それは、下にパンツはいてねぇからだ。」
「ほほぉ…。」
 だってこうまでぴったりした“パンツ”だからな。下着なんか履いたら色んな線が浮いちまってダサイだろ? 簡単にずり落ちたり脱げたりしないようにって、それでの紐なんだぜ? ほうほう、そうですか。そういう理屈の順番での紐使いなんですか。ボンテージ狙いだからってことで、革のズボンにしてもよかったんだけど。まだまだ暑いから蒸れちゃうと困るしサ。レザーと言えばの、鋲とかベルト金具とか鎖とか、そういうのをやたらと使うと、似て非なるかなの“ヘビメタ”仕様になっちまうからな。デザインの段階で彼の意見も入れたらしいことがようよう判る、そりゃあ丁寧な説明を、滔々と語って下さった坊やであり、

  「………で。そのカッコで、お前、一体何処へ行く気なんだ。」
  「決まってんだろ? 秋大会の応援に…っ。」

 そこまではただただ言葉少なに、表情も単調なままに。ほうほうと大人しく聞いてたばかりだった総長さんが。皆まで言わさず、がばちょとばかり。立ち上がるのと同時に自慢の長い腕を鮮やかにひるがえすと。暑いからと傍らに脱いであった白の長ランを大きな手にて掴み取り、返す流れで坊やの首から下を、梱包作業もかくやという手際の良さにて、一気にぐるりっとくるみ込んでしまった。
「何すんだよっ、馬鹿ルイっ。」
「お馬鹿はお前だ、この野郎〜〜〜っ。///////
 確かに可愛かったさ、どっか小悪魔みたいでよ。そりゃあ目立ちもしようさ、黒い衣装の隙間から見せてる、真っ白い腕も脚も腹も背中も、きゅっと締まっててそのくせ柔らかそうでよ。このいで立ちなら、成程、場内の注目も一手に集めようさ、だがだが、だが・だっ!
「猥褻物陳列ってのはなっ、地域条例じゃなく軽犯罪法での取り決めがある、全国共通の立派な“刑法違反”なんだぞっ?!」
「わいせつ・ぶつ…って。」
 日本人には珍しい、きりりと切れ上がった三白眼も冴え冴えと鋭い、すこぶるつきに恐持ての。アメフトと喧嘩でようよう練られた、がっつりと充実した体躯も重厚な。まだ十代の高校生とは到底思えぬ貫禄や威容と、匂い立つような精悍さをたたえた、もう十分に一端の。たとえ男同士であったとて“兄弟分に”と頼りにしたい男衆。そんな男臭いお兄さんが、だってのに…そこまで勢い込んで、そこまで真摯なお顔になって、一体何を言い出すやらと。
「………。」
 あまりに呆れたせいだろう、呆気に取られてのドングリ目。笑うとか怒るとかいう感情を起動させる大元の判断を司る“理解力”が、見事に一旦停止したらしい坊やだったが、

  「誰の何が“猥褻物”だって〜〜〜〜〜っっ?!」

 叫ぶと同時、真ん丸に近いほどの限界ギリギリ、それはそれは大きく見開かれていた金茶のお眸々が。今度は一気に、カッと見開かれてから思い切り釣り上がり。この力み加減は間違いなく、猛烈に怒っていらっさる模様と思われて。
(笑)

「人を 公衆の面前で●●●引っ張り出して喜んでるよな、変態のおっさんの“恥部”と一緒にしてんじゃねぇよっ!」
「い、言うに事欠いて、そんなはしたない表現を持ち出す奴があるかっ!///////
「いい年して純情ぶってんじゃねぇよっ! この天然ドリーマーがっっ!」
「何だとぉっ?!」
「もう高校生だってのに、こんくらいのボンテージで怯みやがってよっ! 今時はなぁ、幼児向けの戦隊ものの女幹部だって、もっと過激なファッションしてるってんだよっ!」
「そういうもんばっか観てっから、こんなけしからん恰好に含羞
はにかみも罪悪感も感じねぇ、どうしようもないお馬鹿になっちまうんだろがっ!」
「提供してんのは大人だ、馬鹿やろっ! 子供向けって言いながら、年嵩な視聴者まで引き寄せようっていう下心が見え見えだってのっ!」
「そんなTV業界の裏事情なんざ、俺が知るかよっ!」
「俺だって、せっかくの日曜の朝早い番組なんか、いちいち観てねぇよっ!」

 ………なんか。喧嘩の論点というか焦点というかが、判りやすいほどに どんどこズレて行ってるんですけれど、お二人さん。
(苦笑) ぎゃーぎゃー・ぎゃんぎゃんと、相変わらずの大騒ぎと化した口喧嘩。小さな小学生を相手に本気でかかる葉柱を、大人げないとは思うなかれ。一瞬でも気を抜くと、それっと畳み掛けて来るそりゃあ賢い坊ちゃんで、しかもしかも、
「●●●が ##で ▽▽▽だってんだっ!!」
「お前っ、子供のくせに何てことをっ!! ////////
 俊敏な反射が繰り出す多様なボキャブラリーは、高尚精鋭かと思や、とことん下品だったりもする緩急自在さが絶妙で。さながら…自動式の機関銃か、超高速での連続射撃が可能な高性能のガトリング砲か。ちょっとでも怯んだり、言い返しの文言を咬んだりした日には、そのまま辛辣なまでの“ツッコミ”が容赦なく立て続き、完膚無きまでに打ち懲らされての無残な敗北を帰することとなる。たかが口喧嘩といっても、そうまで本格的で、尚且つ…負けるとますます増長することが判り切ってる相手だと来りゃあ、年長者としてのプライドがついつい黙ってはいない。所詮は子供の言うことじゃないかと、ああそうかいそうかいと話半分にあしらえない、馬鹿正直な不器用さんだから尚のこと、いつもながらの舌戦は、とうとう…
「いくら箸が上手に使えたって、ルイってばサンマの食べ方が汚いじゃんかっ!」
「なにをっ!」
 という。全然焦点が合ってない話にまでずれ込みながらも、声の高さや勢いから察するに、いよいよの佳境を迎えつつあるようで。
「暑っついから、これ、脱がせろ〜〜〜〜っ!」
「そうはいかんっ!」
 おお、ギリギリになって話が主筋へ戻って来たぞという、その拍子。小柄な坊やにはずんと大きな学ランを、ガウンやマントみたいに羽織らせてのくるみ込み。袖とて通さぬ着させ方ゆえ、身動きが侭ならないのも不愉快な坊やであったらしく。上着の中で腕を突っ張り、身じろぎしながら むいむいと暴れ始めた。それを見て、
「あ、こらっ!」
 勝手に脱ぐんじゃねぇと、はだけられかかった合わせを押さえようと、大きな手で簡単に掴んでいた襟元へもう一方の手を伸ばしたところへ、
「えいっ!」
 両肘を左右に張っての、脱皮さながらな“脱衣”をした坊や。勢いがつきすぎて、そのまま背後へたたらを踏みそうになり、
「…あっ。」
 驚いたようなお顔でのけ反った彼を支えようとして、葉柱が座っていたベンチから反射的に腰を浮かせつつ、捕まえようと伸ばしていた腕をもう少し先へと乗り出して。真っ直ぐに追いかける格好になる。はらりと左右にはだけかかってた学ランの合わせ。再び一緒くたに掴んでそのまま、自分の側へと引いたなら、

  “…ああ、しまった。”

 この子ってば、いつもの喧嘩相手の標準よか、てんで小さくて軽いんでやんの。咄嗟だったからこそ、直前まで激高していたからこそ、手加減・力加減の目測が狂いまくり。焦りながらぐいっと引いたら、あまりの軽さにあっさりと総身が浮いて、懐ろまで勢い良く飛び込んで来た、小さく可憐な王子様(只今、肌もあらわな仮装中)。取っ捕まえた相手のその重みからの手ごたえで、自分の身の支えも兼ねようなんて、そうと思っていたバランスだったものが、全く持ちこたえられずに。一種の肩透かしを受けたような状態のまま、今度は葉柱が後方へ…腰掛けていたベンチの向こうへと引っ繰り返る。


  ――― 全ては刹那の宙返り。


 まさかまさか、そんな他愛のないドタバタが。あんな変てこりんな事態の入り口になろうとは。一体誰が思うだろうか。
「…ってぇ〜〜〜っ☆」
 ほんの50センチあるかないかという低さのベンチだったとはいえ、後方へ殆ど何の抵抗もないままの思い切り。絵に描いたように“すって〜んっ☆”と転げれば、当たりどころによれば痛いし、怪我はなくともビックリはする。バランスを崩した原因の、腕の中でしゃにむに暴れていた坊やもまた、床へと一緒に投げ出されており。羽織っていた白に向かって視線をやって、
「大丈夫か………?」
 無造作にかけた声が…途中で凍った。微妙な露出と緊縛テイスト満載なコーデュネイトがあまりに過激だったのでと、その身をくるみ込むようにしてやった白ランの、裾からはみ出していた生脚が………異様に長いような気がしたから。

  “………え?”

 1mと少しほどの身長しかなかったおチビさんは、確かに、すんなりとした脚をしてはいた。その肉づきのバランスがまた、ただの子供っぽい“ぷくぷく系”ではなく、そうかと言って骨張っての華奢すぎもせず。しなやかさと柔らかさが絶妙な配合で同居した、あの幼さで蠱惑的な色香さえ滲ませているような…いやあの・えとその、げふんげふん。
(苦笑) そうは言っても、身長が身長だったから。いかにもお子様、寸足らずな長さとバランスのそれであった筈が、

  「痛ってぇな〜、もう。」

 一緒に転げたというシチュエーションから、むっくりと身を起こそうとしていた相手はというと。丁度こっちの方へ向け、その身に羽織った白い上着の裾から…にょっきりと。自分と大差無いほどの長さと、これは全然違うのだろう、抜けるようななまめかしい白さ、肉づきの御々脚
おみあしを剥き出しにしておいでになり。その白いお膝を立てながら、倒れ込んでた上体を起こして見せて。

  “な………っ?!”

 全身くまなく色白で、柔らかそうなくせっ毛の金髪に、底まで見通せそうな、そりゃあ透き通った金茶の瞳。ちょっぴり利かん気そうな気性をまんま映した、力みのキツい目許も今はまだ。丸みの方が強くて大きく、潤みの強い、瑞々しい光を湛
たたえていて。小ぶりな顎の少しほど上には、野ばらの蕾のように輪郭の立った、そのくせ柔らかそうな口許が据わり、いかにも年齢相応に愛らしい面差しだった筈だのに………。

  “嘘だろ〜〜っ?!”

 すぐ目前の間近にて、むくりと起き上がった彼はといえば。色白だが金髪だが、金の瞳をしているが。それらをまとった身の、背丈がスタイルがタッパが、そして雰囲気が、いつもの坊やとあまりにも違い過ぎるのだから…これはビックリ。天使のようなお人形さんのような、稚くもそれはそれは愛らしい造作だった顔容
かんばせは、ほんのちょっぴり面長に寸が育ったその代わり、鋭利な目許に気力を張って、妙に妖冶な美麗さを増しており。起こされたその身の背丈も…自分とさして変わらないほどに、すらりと伸びているではないか。


  “な…なんなんだ? こりゃあ。”


 何なんでしょうね、ホント。
(おいおい)





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